龐公列伝


龐公という者は、南郡襄陽の人である。
峴山の南に住居を構え、未だかつて城府に入ったことが無かった。
夫婦は互いに賓客に対するように敬いあっていた。
荊州刺史である劉表はしばしば出仕を請うたが、したがわせることが出来ず、自ら出向いた。
そして劉表は言った。
「それ、一身を保つのと、天下を保つのではいずれが重要でしょうか」
龐公は笑って言った。
「鴻鵠は高い林の上に巣をつくることによって、日が暮れても棲むところがある。黿鼉は深淵の下に穴をつくるから、夕暮れに宿るところがある。趣舍行止(出処進退)というのは、人の巣穴である。各々はその棲み寝るところを得れば良く、天下を保つ必要は無い」
そして耕すのをやめ畦道に座り、妻子はその前で草をむしっていた。
劉表はそれを指し問うて言った。
「先生は畎畝に居して苦しみ官祿を得ようとはしませんが、後世子孫に何を遺されるおつもりでしょうか」
「世の人は皆、危を遺し、今私は獨り安を遺す。遺すものは同じではないといえども何も遺さないというわけではない」
劉表は嘆息して去った。
後に妻子を連れて鹿門山に登り、(仙)薬を採りに行ったが帰ってこなかった。

賛にいう。
江海冥滅、山林長往
遠性風真、逸情雲上
道就虛全、事違塵枉