安堵
「失礼いたします」
「…」
諸葛亮 「周都督、どうされました?」
周瑜 「…」
諸葛亮 「もしや、もうすぐ攻めてくる曹操の大軍に憂えておいでか」
周瑜 「…」
諸葛亮 「実は下痢で動けないとか?」
周瑜 「…」
諸葛亮 「もしも〜し」
周瑜 「うん、諸葛亮ではないか。如何なされた?」
諸葛亮 「いえ、ずっと黙っておられたので」
周瑜 「いや何、美しすぎる私は罪で無いのか考えていたのだ」
諸葛亮 「…」
周瑜 「ん、私の美声に酔われたか?」
諸葛亮 「あなたはどこのナルキッソスですか」
周瑜 「いつも(劉備等)野獣の真に醜悪なる濁声ばかり聞いておれば、私の流水が如き美声に聞きほれるのも仕方ない事だよ」
諸葛亮 「あの、そうではなくて」
周瑜 「そういえば挨拶が遅れていたな。翡翠の如くビューティフォーな私が居る光の地へようこそ」
諸葛亮 「びゅ、びゅてぃふぉー??」
周瑜 「ノン、ノン、ノン、ビューティフォー。さあ、言ってごらん」
諸葛亮 「びゅーてぃふぉう。ってそんなこといってる場合ではありません」
周瑜 「君には素質がある。私が直々にレッスンしてあげよう」
諸葛亮 「ひっ。いやそれより、貴方には迫り来る曹操を撃退し江南に住む蒼生を安堵させる使命があるのですよ」
周瑜 「安堵とは何かね。ちょっと素敵な響きがする言葉だが」
諸葛亮 「こ、これから説明いたします」
戦国時代のこと。
斉の湣王は宰相の孟嘗君を追い、驕慢になっていた。
斉に父を殺された燕の昭王は復讐するために樂毅を将軍に任命し斉へ侵攻させた。
樂毅は快進撃を続け斉の七十余城を降し、斉は莒と即墨の二城を残すのみとなった。
ところが、燕では昭王が亡くなり、子の恵王が即位した。
恵王は樂毅を嫌っていた。
そこで即墨を守る田単は間者を燕に送り「樂毅が莒と即墨を落とさないのは斉の王位を狙っているからだ」と流言を流した。
これを信じた恵王は樂毅を更迭し騎劫を後任として送り込んだ。
すると田単は即墨の富豪から醵金させ、それを使者を介して騎劫に献上し次のように申し出た。
「もし即墨を落としても私たちの一族だけは捕虜にするようなことは無く、堵を安んじてください(家の垣根をあらさないでください)」
これを聞いた騎劫はすっかり油断してしまった。
諸葛亮 「このようなことから、安心する事、居所に安んじて暮らすことを意味します」
周瑜 「それが私の使命だと?」
諸葛亮 「金剛石のように輝いておられる周都督にしかなせない、非常にぴったりの使命かと」
周瑜 「ふむ、では風のように流麗に曹操を破ろうではないか」
諸葛亮 「美しくですか」
周瑜 「美しいものが嫌いな人がいるのかしら?」
諸葛亮 「それが年老いて死んでいくのを見るのは悲しいことだと?」
周瑜 「君はやはりなかなかのものだ」
諸葛亮 「か、買いかぶっておられます」
周瑜 「椿の大輪も牡丹に敵わぬとはいえ花なのだよ」
諸葛亮 「椿ですか…」
周瑜 「やはり私直々に雨のようにやさしくレッスンしてあげよう」
諸葛亮 「そ、それより、曹操を破る華麗で優雅な策が御座います」
周瑜 「ほう、何かね?早く教えてくれたまえ」
諸葛亮 「先の話の後、田単は火牛の計を用い燕軍を破りました。ここは火計がよろしいかと」
周瑜 「よろしい。では田単の火牛などとは比べ物にならない美麗な火計をご覧にいれようではないか」
諸葛亮 「楽しみにしてます」
周瑜 「ではここで予行演習といこうか」
諸葛亮 「え?」
周瑜 「ここに火を点ければ…」
諸葛亮 「うああ、何やってんですか」
周瑜 「真紅に燃え上がる炎。美しい」
諸葛亮 「恍惚としてる場合では、ぎゃあ」
周瑜 「やはり紅蓮の焔は私にこそふさわしいな。うん、諸葛亮、そんなところで寝てたら風邪ひくぞ」
諸葛亮 「も、もうすぐ死にます」
周瑜 「だらしがない。そんなことでは私の親衛隊に入れないぞ」
諸葛亮 「もうイヤぁああああああ!!」