「夏侯惇だ」

　「許褚でござる」

　「荀�ｹです」

夏侯惇　「急に呼び出されたが、なんなんだ」
荀�ｹ  　 「殿のご命令で、皆様に故事を学んでいただくことになりまして、これからわたくしが皆様にご教授いたすことになりました」
夏侯惇　「おう」
許褚　   「イーエッサー」
荀�ｹ　   「お二人とも元気がよくて大変結構。ところで故事成語の意味を、夏侯惇将軍は知っておられますか？」
夏侯惇　「無論だぜ、故事は教訓やいわれ、故事成語は故事を元にした慣用句やことわざのことだ」
許褚　   「おおーっ！」
夏侯惇　「これぐらい常識だろ、何驚いてるんだお前。簡単に言えば古い出来事に基づいてできた言葉だ。そうだよな軍師殿」
荀�ｹ　   「はい、そのとおりでございます。さすがは夏侯惇将軍」
許褚　   「俺だってそれぐらい知ってましたよ。ムジュンとかスイコウとかでしょ」
荀�ｹ　   「全部カタカナなのが気になりますがそうでございます」
夏侯惇　「で、どんな故事なんだ」
荀�ｹ　   「はい、今回は四面楚歌でございます」
許褚　   「シメンソカ？それって食べられる新聞ですか？　美味しいのかな」
荀�ｹ　   「？」
夏侯惇　「それは紙面粗菓だ」
荀�ｹ   　「意味が全く分かりません」
夏侯惇　「まったく食い意地が張ってやがるから」
許褚   　「俺は良く働くから腹が減るのも早いんです」
夏侯惇　「一日中ぼーっとしてるくせに」
荀�ｹ   　「あの、そろそろ本題へ入りたいんですが…」
夏侯惇　「おお、軍師殿すまん。こいつが馬鹿なことほざくから」
許褚　   「だって…」
夏侯惇　「五月蝿い！」

紀元前202年、楚の項羽は垓下に追い詰められ、十重二十重に包囲された。
そして夜中になると、四方から楚の歌がきこえてくる。
それを聞いた項羽は驚き「漢はすでに楚の全てを征服したのだろうか。なんと楚の歌のおおいことだろう」と嘆いた。




荀�ｹ　   「これが元となった話で、史記の項羽本紀にあります」
夏侯惇　「これって張良の策なんだよな」
荀�ｹ　   「ええ、楚兵の望郷の念を駆り立て脱走を誘った謀でございます」
許褚　   「張良って軍師殿がやってきたとき殿が『我が子房』って言った時の子房ですか」
夏侯惇　「そうだよ。軍師殿はそれだけ凄い人ってことだ」
荀�ｹ　   「うふふ、おだてても何も出ませんよ」
許褚　   「それはいいとしてどういう意味なんです」
荀�ｹ　   「…、これはですね、周りは敵だらけ、言い換えるなら孤立無援ってことです」
許褚　   「呂布の配下に捕らえられた時の夏侯惇将軍のことですね」
夏侯惇　「うるせえ、あれはつい油断して…」
許褚　   「韓浩からも命は諦めろといわれ、殿もそれを支持しましたしねえ」
夏侯惇　「てめえ、調子に乗るんじゃねえ」
　　　　　　バキッ
許褚　   「何するんですか！　もう許しませんよ。いつも俺のことコケにして」
　　　　　　ドカッ
荀�ｹ　   「お二人ともおやめなさい。ああ、もう、なんでこうなるんですか」
夏侯惇　「虎痴のくせに生意気だ！」
　　　　　　ベキッ
許褚　   「アンタって人はぁぁぁーーっ！だいたい俺はホントのこと言っただけでしょ！」
　　　　　　ドスッ
夏侯惇　「言っていいことと悪いことがあるわい！」
　　　　　　ガスッ
荀�ｹ　   「はたしてこれからやっていけるのだろうか…」
荀�ｹの心配をよそに2人の喧嘩は続くのであった。