李��（り こう）　
天福十二年（947）〜景徳元年（1004）
字・太初
謚・文靖
洺州肥鄉の人
北宋名相の一人
太平興国五年の進士
真宗の教育係
李�ﾑに「後に宰相となるだろう」と予言された。



真宗は契丹と和親した。
王旦は李��に意見を求めた。
「講和が良いことであることは間違いない。しかし、外患がやめば陛下が奢侈にならないか心配だ」
王旦は納得できなかった。
真宗は晩年になると各地を巡幸し、宮殿を造営し、国費を浪費した。
この時になって王旦は言った。
「李公には先見の明があった」



真宗が即位した当初、李��が宰相で、王旦が参知政事であった。
李��は毎日、地方の旱魃や盗賊といった細々としたものまで上奏した。
王旦はそんな細かいことまで上奏して帝を煩わさなくてもよいのに思っていた。
すると李��が王旦に言った。
「陛下が年少だから常に各地の艱難を知らせている。そうしないと血気に任せて、思いを音楽や女色、闘犬、駿馬に馳せ、土木や用兵、祭祀での事件が起きるだろう。私は老いたので見ることは無いが、君は後日、憂慮することになるだろうな」
この李��の予見は後年になるとすべてその通りとなった。
その時、王旦は丁謂や王欽若等、佞臣の所業を見て、真宋を諫めたかったが時すでに遅かった。
しかし致仕しようにも真宗の自分への信任、厚遇を考えるとしのびない。
王旦は李��を思い出して嘆息して言った。
「李文靖は真の聖人であった」



寇準は最初は丁謂と仲が良かった。
常日頃から、たびたび丁謂の才能を李��に推薦していたが、用いられることは無かった。
ある日、寇準が李��に聞いた。
「前々から丁謂の才能をお聞かせいたしましたが、貴方様は用いられません。彼の才能は用いるのに足らないのでしょうか。それとも私の言葉が聞くに足らないのでしょうか」
「彼は才能はある。しかし彼の人となりをみると、人の上に居るような人物ではない」
「丁謂のような者を、貴方様が何時までも抑えて人の下に置いておけるものでしょうや」
「後日、後悔すれば、私の言葉を思い出してくれ」と李��は笑って言った。
時は流れ、寇準と丁謂は権力争いをし、寇準は海康の過（嶺南に流されたこと）ということになって、はじめて李��の見識に感服した。



李��は内密の上奏は行わなかった。
ある日、真宗は李��に尋ねた。
「皆は秘密の上奏をしているが卿一人だけはそれをしないのはどうしてか」
「私は非才の身でありながら宰相の位に居ります。おおやけの事であればおおやけに上奏いたします。どうして秘密裏に上奏しなければならないのでしょうか。だいたい秘密の上奏というものは讒言でなければ佞臣のやることです。私はこれを嫌っております。どうしてそんな奴等と同じことをしなければならないのでしょうか」



李��は宰相となると、いつも論語を読んでいた。
ある人がこのことを問うた。
李��は言った。
「私は宰相となって論語にある『用を節して人を愛し、民を使うに時を以ってす』の両句のようですらいまだ行う事が出来ない。聖人の言葉は死ぬまで諳んじるべきなのだ」



李��は宰相となり、封丘門の内側に邸宅を構えた。
玄関前はやっと馬がまわれる程度であった。
ある人が「狭すぎるのではないですか？」と言うと、李��は笑って言った。
「邸宅は子孫に伝えるもの。宰相の玄関としては狭くとも太祝、奉礼（ともに大臣などの子弟がもらえる七光りの位階　従九品）の玄関としては広いぐらいだよ」



李��は宰相の位にあって、賓客と接する時、いつも寡黙であった。
馬亮は李��と同年の生まれで李��の弟の李維と仲が善かった。
馬亮は李維に語って言った。
「外では君の兄の事を無口匏だと言っているよ」
李維は李��に間を見計らって馬亮の言葉を伝えた。
李��は言った。
「私が、それを知らない事はないよ。しかし今の朝士は殿に登って事を言い、封を奉って論奏することが出来、ふさがれる事なく、多くは有司に下され、皆これを見ている。国の大事は、北に強虜あり、西に戎遷あり、日が暮れるまで議論がおこなわれている。備に議論した方針が、詳らかに究められないことがあるだろうか。李宗諤、趙安仁といった者は時の英秀であるのに、彼等と談じても、私の意図が啓発する事は出来ない。他の名門の子弟は座起拝揖すらも周章して落ち着かない。席につけば必ず自分の功績を最も論じ、寵愛されることを願う。これではどうしようもない。いやしくも意を曲げて妄りに発言するのは、世に言う籠罩である。籠罩のようなことは私はいまだにしようと思わない。私のために馬君に謝してくれ」
李��はかつて言っていた。
「重位にあって、実に万分の補いなし。ただ中外の陳べるところの利害、いっさいにこれを報罷す。ただこれ少しをもって国に報いるのみ。朝廷の防制、繊悉は備に具わっている。あるいは陳情するところに従って、一つのことを実施すれば破綻は多いだろう」
陸象先は言った。
「庸人がこれを擾れるとはまさにこのことである。憸人は新しいものに飛びつき、民を思う事はない」



李��は重厚にして淳質であった。
言葉に枝葉はなく、善く文を属した。
治体を識り、賢を好んで善を楽しんだ。
丞相となって長者の誉れがあった。
すこぶる釈典に通じ、もっとも栄利を厭い、世務はまれに心を加えた。
自分の事にはかまわず、陋巷にいて、表座敷に重門を構えるようなことはなく外に接近するようであった。
垣根は崩れ、壁は壊れていたが、李��は気にかけなかった。
堂の前の薬欄が壊れた。
妻は舎を守る者を戒めて修繕させずにおいて李��を試した。
李��は朝夕これを見たが、一月経っても遂に何も言わなかった。
妻はとうとう理由を話した。
李��は笑って弟の李維に言った。
「こんなことで私の信念を動かすことが出来ようか」
家人が家をあらたに建てることを勧めた。
しかし答えるようなことはなかった。
李維は話のついでにこの話題に触れた。
李��は言った。
「自身、高禄を食み、時には横賜まである。新邸を築くのは容易い。ただ思うのは内典にこの世界は欠陥でできているという。どうして円満如意を得ることが出来ようか。満足を求めれば、今、新宅を築けば一年もかかる。明日のこともわからないのに、そんな先が保証できようか。林に巣う一枝、いささか自ら足るのみ。どうして豊かな邸を大事とするだろうか」