智伯(智瑶、荀瑶)は魏桓子(魏駒)に土地の割譲を求めた。
魏桓子はあたえなかった。
任章は言った。
「どうしておあたえにならないのですか」
「理由もなく土地を求めてきた。だからあたえなかったのだ」
「理由無く土地を求めれば、隣国は必ず恐れるでしょう。欲を重ねて厭くことが無ければ、天下(の諸侯が)必ず懼れることになりましょう。殿は彼に土地をお与えになってください。智伯は必ず驕ります。驕って敵を軽んじれば、隣国は恐れて互いに親しむでしょう。互いに親しむ兵で。敵を軽んじる国を相手にすれば、智氏の命脈は長く無いでしょう。周書に『これを敗りたいと思ったら、必ずしばらくこれをたすけなさい。これを取ろうと思ったら、必ずしばらくこれを与えなさい』とあります。殿は土地をおあたえになって智伯を驕らせるべきです。殿はどうして天下の諸侯をひきいて智氏を倒す事を謀らないで、一人わが国を智氏の攻撃対象になさるのですか」
「その通りだな」
そのため万戸の邑を智伯にあたえ、智伯は大いに悦んだ。
そして智伯は蔡、皐狼の土地を趙にもとめたが、趙はあたえなかった。
なので晋陽を包囲した。
韓と魏は外で離反し、趙が内から呼応して智氏は遂に滅んだ。


韓と趙が互いに開戦した。
韓が魏に援軍を求めて言った。
「願わくば師(兵二千五百)を借り、それで趙を伐ちたく思います」
魏の文侯(魏都)は言った。
「私は趙とは兄弟の間柄である。故に従うわけにはいかない」
趙もまた兵を借りて韓を攻めたいと言ってきた。
文侯は言った。
「私は韓とは兄弟の間柄である。故に従うわけにはいかない」
二国とも援軍を得られなかった。
使者は怒って帰った。
やがて文侯が自分に味方したことを知り、皆魏に入朝した。


樂羊は魏の将となって中山を攻めた。
樂羊の子は中山にいた。
中山の君主はその子を煮殺して羹にして樂羊におくった。
樂羊は幕下でこれを啜って、一杯を飲み干した。
文侯は堵師賛に言った。
「樂羊は儂のために我が子の肉を食べてくれた」
堵師賛はこたえて言った。
「我が子の肉すら食べるのですから、誰の肉でも食べるでしょうな」
樂羊が中山から帰還すると、文侯はその功績を賞して、心を疑った。


西門豹は鄴の令となって、魏の文侯に赴任の挨拶をした。
文侯は言った。
「行きなさい。必ず功を立て、名を成しなさい」
「敢えて聞きます。功を立て名を成すのに、方法はありますでしょうか」
「ある。郷邑の老人で最初に席をすすめられる人物には、自ら進み出て賢良の士を問うて、これに師事せよ。その人の美点を覆い、醜聞を揚げるのを好む者を探し、これを参考にしろ。物の多くは似ているようで違う。幽莠の幼いのは禾に似ている。驪牛の黄色いのは虎に似ている。白骨は象牙と疑われ、武夫(石)は玉ににている。これらは皆似て非なるものである」


文侯は虞人と狩猟の約束をした。
その日、酒を飲んで楽しんでいて、雨が降っていた。
文侯は出かけようとした。
左右は言った。
「今日は酒を飲んで楽しみ、雨が降っております。貴方はどこへ行かれるのですか」
「私は虞人と狩猟の約束をした。楽しんでいるとしても、一度は会いに行かねばならない」
そして行って自ら狩猟を取りやめることにした。
魏はここにおいてからはじめて強くなった。


魏の文侯は田子方と酒を飲み音楽をかなでさせた。
文侯は言った。
「鐘の音があっていないな。左が高い」
田子方は笑った。
文侯は言った。
「何を笑われるのか」
「私はこう聞いております。君主が明であれば官の和を楽しみ、不明であればを楽しむと。今、殿は音域については審らかです。私は、殿が官のことに暗いことを恐れます」
「その通りだ。つつしんでお教えを受けましょう」