齊と楚が陣を構えようとした。
宋は中立したいと請うた。
齊は宋を脅迫し、宋はしかたなく出兵する事となった。
子象は楚のために宋王に言った。
「楚が緩かったために宋を失いました。なので次からは齊に倣って脅迫するようになるでしょう。齊は脅迫によって宋の援兵を得る事が出来たなら、今後、常に脅迫してくるでしょう。宋は齊に従って楚を攻めることになりますね。それは必ずしも利があることではございませんよ。齊が戦って楚に勝てば、勢い宋は危うくなります。勝たなければ、弱い宋が強い楚をおかすことになります。而して万乗の両国に、いつも脅迫に乗って要求に従えば、国は必ず危うくなるでしょう」と。


邯鄲の難(魏軍が趙の首都邯鄲を包囲した事)に際して、昭奚恤は楚王に言った。
「王は趙を救うことなく魏を強くするべきです。魏が強ければ、必ず趙に多く土地を割譲させるでしょう。趙が割譲要求を呑まない場合はすなわち堅く守る事になります。これは両国とも疲弊するということです」
景舎が言った。
「そうではりません。昭奚恤はわかっておりませぬ。魏が趙を攻めるに際し、魏は楚が背後を衝く事を恐れております。今、趙を救わなければ、趙は滅ぶ様相をていしており、魏は背後を衝かれる憂いが無いことになります。これは楚は魏とともに趙を攻めるのと同じことでございます。つまり魏は大きく土地を割譲させることが出来ます。どうして両国が疲弊するなんてことになりましょうや。また魏は楚への備えの守備軍と侵攻軍を合わせて趙から大きく土地を割譲させれば、趙は滅ぶ様相をていしていながら、楚が自分達を救わないのを知れば、必ず魏と協力して楚を侵攻しようと謀るでしょう。ですから王よ、少しの兵を出してやり趙を援けてやるにこしたことはありません。趙は楚の勁さを恃んで必ず魏と戦うことでしょう。魏は趙の勁さに怒り、而して楚の救援が畏れるに足りないと見れば、必ず趙から撤退はいたしません。趙と魏は共に疲弊し、齊と秦が楚に呼応すれば、魏を破る事が出来ましょう」
そこで楚は景舎に兵を率いさせて趙を救援させた。
そして楚は睢、濊両水の間の土地を手に入れた。


江乙は魏のために使者として楚に赴き、楚王に言った。
「私が国境を越えてから、こういうことを聞きました、『楚の風俗では、人の善を覆わず、人の悪を言わない』と。本当でしょうか」
「本当だ」
「そうであるなら白公の乱が起きたのもしかたのないことです。本当にそうであるなら臣等の罪は免れます」
「どうしてか」
「州侯は楚の宰相として貴いことは甚だしい事でございます。そして国政を壟断しております。王の左右の者達は言っております『そのようなことはありません』と。まるで一つの口から出たようです」


荊の宣王は群臣に問うて言った。
「私は北方の国々では昭奚恤を畏れていると聞くが、これは本当であろうか」
群臣で答えるものはいなかった。
そこで江乙が答えて言った。
「虎は百獣を求めてこれを食らいます。あるとき狐を捕らえました。狐は言いました。『貴方は敢えて私を食らってはいけない。天帝は私を百獣の長とされました。今、貴方が私を食らえば、天帝の命に逆らう事になります。貴方が私を信用できないのならば、私は貴方のために先行しましょう。貴方は私の後ろからついてきて、百獣が私を見て敢えて逃げようとしないかを御覧なさい』虎はその通りだと思った。なので狐と一緒に行った。獣はこれを見て皆逃げ出しました。虎は獣が自分を畏れて逃げるのをわかりませんでした。そして思いました狐を畏れて逃げるのだと。今、王の領地は方五千里、帯甲は百万もいますが、もっぱら昭奚恤に属しております。故に北方の国々が昭奚恤を畏れるのは、実際には王の甲兵を畏れているのと、百獣が虎を畏れるのは同じことでございます」