公輸般は楚のために攻城兵器をつくり、それで宋を攻めようとした。
墨子はこれを聞き、一日百舎(一舎=十二里)を行き、足に出来た肉刺のうえにまた肉刺が出来るほど歩いて行って、公輸般に会い、彼に言った。
「私は宋で貴方の事を聞きました。私はあなたの力を借り王を殺したいと思います」
「私は義として王を絶対に王を殺しません」
「貴方は雲梯をつくり、宋を攻めると聞きました。宋にどんな罪があるのでしょうか。義として王を殺さないで國を攻めるのは、少数を殺さないで大衆を殺す事です。敢えてお聞きします。宋を攻めるのはどういう義なんでしょうか」
公輸般は屈服した。
墨子に頼んで(楚)王に会見させた。
墨子は楚王にまみえて言った。
「今、ここにこういう人がいるとします。飾りのついた車をすてて、隣のくたびれた車を盗もうとし、錦繍をすてて、隣の粗末な衣服を盗もうとし、良い肉をすてて、隣の糟糠を盗もうとしました。これはいったいどういう人でしょうか」
「必ず盗癖がある者であろうな」
「荊の地は方五千里、宋は方五百里で、これは飾りのついた車とくたびれた車の関係と同じです。荊には雲夢沢があり、犀、兕、麋、鹿が満ちています。長江、漢水の魚、鼈、黿、鼉は天下の饒です。宋は所謂、雉、兎、鮒、魚もいません。これは良い肉と糟糠の違いのようなものです。荊には長松、文梓、楩、楠、豫章といった良質の木があります。宋には長木はありません。これは錦繍と粗末な衣服と同じような関係にあります。私は、王の吏が宋を攻めるのはこれら(先にあげた盗癖ある人)と同類だと思います」
「よろしい、宋を攻めることはしないであろう」