忿狷篇


魏武(曹操)に一人の妓女がいて、声が最も清高であったが、性格はとても悪かった。
殺したいと思っていたが、その才を愛しんで、置いておこうとも思うがやはりその性格が堪えられない。
そこで百人の歌妓を選んで同時に教えさせた。
しばらくすると、一人だけ彼女に及ぶ者がいたので、性悪の妓女を殺した。


王蘭田(王述)は性急であった。
かつて鶏子(卵)を食べようとして、箸で刺したが上手くいかなかった。
すると大いに怒って取り上げて地面に投げつけると、卵は地面に転がって止まらなかった。
なので地面に立って、屐の歯でこれを踏もうとしたがまた上手くいかなかった。
瞋ること甚だしく、また地面から取り上げ口の中に入れて噛み砕いてから吐きすてた。
王右軍(王羲之)はこれを聞いて大いに笑って言った。
「安期(王述の父王承)ですらこんな性格であれば毛筋ほどの取り柄もない。まいてや蘭田をや」


王司州(王胡之)はかつて雪に乗じて王螭のもとへ行き、王胡之の言い方が王螭の癇に障った。
つまり顔色がたいらかでなかった。
王胡之は悪感情を覚え、牀をかついで王螭に近づき、王螭の肘を持って言った。
「お前なんぞは私と計るに足りない」
王螭はその手を払って言った。
「冷たきこと鬼手のようで、死体が来て人の肘をつかんだ」


桓宣武(桓温)は袁彦道(袁耽)と樗蒱をした。
袁彦道の思うような目が出ず、遂に顔色を変え五木を投げ捨てた。
温太眞(温嶠)が言った。
「袁生が八つ当たりするのを見て顔氏(顔回)の貴さを知ったよ」