棲逸篇


阮歩兵(阮籍)の嘯く声は数百歩の距離まで聞こえた。
蘇門山中に忽ち眞人(仙人)が有って、樵伐の者(きこり)は皆その話を伝え聞いた。
阮籍が行って観ると、その人は膝を抱え巌の側にいるのが見えた。
阮籍は嶺を登りこれに近づき、足を投げ出し相対した。
阮籍は終古をかたり、上は黄農玄寂(黄帝や神農の玄なる道)を陳べ、下は三代成徳(夏商周の徳)の美考え問うただが、(先軫は)i然として応えなかった。
また有為のほか、棲神導氣の術をのべて観るが、なお彼はさっきと同じで一点を見つめ振り向くような事は無かった。
阮籍は相対して長嘯ししばらく経った。
すると(仙人は)笑って言った。
「もっとやりなさない」
阮籍はまた長嘯し、嘯くこともなくなり退いて半嶺ばかり還ると、上に唒 然とした声を聞いた。
数部の鼓吹のように林谷に響き伝わった。
顧みれば先の人が嘯いているのであった。


嵆康は汲郡の山中で遊び、道士孫登に遇い、遂にこれと遊んだ。
嵆康は去るに臨んで孫登は言った。
「君、才は高いが、保身の道には通じていない」


山公(山濤)は選曹(官職)を去ろうとして、(後任に)嵆康を推挙しようとした。
嵆康は手紙を送り絶交を告げた。