曹沫列伝



曹沫というのは魯の人である。
勇力をもって魯の荘公に仕えた。
荘公は力を好んだのだ。
曹沫は魯の将となり、斉と戦ったが、三度敗北した。
魯の荘公は懼れ遂邑の土地を差し出すことを条件に和睦しようとした。
猶、また曹沫を将軍とした。
斉の桓公は柯の地で魯と会見し盟約を結ぶ事を許した。
桓公と荘公は壇上で盟い終わると、曹沫が匕首を持って桓公に迫り、桓公と左右の臣は動く事が出来ず、桓公は言った。
「そなたはいったい何を望むのか」
「斉は強く魯は弱い、それに大国による魯への侵攻は甚大であります。今、魯の城は壊れ斉との境へ崩れ落ちそうな有様で、貴方様にはこのことをおはかりください」
桓公は侵攻して奪った魯の土地をことごとく帰すことを承諾した。
言い終わると、曹沫は持っていた匕首を投げ捨て、壇を下り、北面して戝臣の位につき、顔色は変わらず、話しかたも普段とかわらなかった。
桓公は怒り、約束を反故にしようとした。
すると管仲が言った。
「それはなりません。小さな利益を貪って自ら爽快な気になっても、諸侯相手に信頼を棄てる事になり、天下の援助を失いますので、ここは与えておいた方がよろしゅうございます」
ここにおいて桓公は侵攻して取った土地を魯に返し、曹沫が三戦して失った土地はまた魯に復した。
その後百六十七年すると、呉で專諸の事件がおきた。